大学生活の中心となる学習面において、発達障害のある学生は多様な困りごとを抱えることがあります。その時、大学は、教職員はどのように「合理的配慮」を行えばいいのでしょうか。また、対応において、どのような点に注意すればいいのでしょうか。障害種別にも分けて確認します。
大学での講義は、障害のない学生に向けて組み立てられているので、障害のある学生が講義を受ける上で、様々な困りごとが生じることがあります。そこで、障害や困りごとに合わせた個別対応を行う必要が生じます。「合理的配慮」は本人の意思の表明が必要になりますが、本人が支援を求めた時に、各部署・教員の連携による対応が求められます。
発達障害の学生の場合は、身体障害の学生と比べると「合理的配慮」が難しい状況にあります。身体障害のある学生は、どこに障害があるのか比較的分かりやすいため、配慮の方法も分かりやすいです(例:聴覚障害があるから、ノートテーカーをつける)。しかし、発達障害のある学生は、障害が分かりにくいため、どのように、どこまで配慮をしていいのかの線引きが難しくなります。
また、講義において、現場を担当する教員の意識付けは非常に大切です。近年の障害者支援の流れを受け、教員間でも意識が高まってきているものの、知識・経験が不足している教員はまだ多いことが現状です。特に、発達障害の場合、その見えにくさから、「わがまま」「努力不足」として教員に扱われることで、学生が大きく傷つく場合もあります。FD研修などにより、非常勤講師も含めた啓発が求められます。
学習支援をするにあたり、最も注意をしないといけないのは、「合理的配慮」の程度です。高等教育機関である大学について、合理的な範囲を超えることは学生の自立を阻害することになります。例えば、同じ課題について、障害のある学生だけは採点が甘いとなると、その学生が必要な学習ができないことを許しています。これは、一見配慮をしているようで、実際は学生の学習の機会を奪っていることになります。では、どの程度が合理的なのか。基本的に「講義によって身につけるべき技能・知識」を得ることができ「成績評価が公平」となることが最低限必要となります。
また、「合理的配慮」の考え方からすると、学生からの意思表示が必要となります。しかし、本人は配慮を必要としていないものの、周囲に影響を与えるケースがあります。例えば、コミュニケーションを極度に苦手とする学生が、グループワーク中心の講義で他のメンバーとうまく関係を築けない場合などが挙げられます。周囲に迷惑をかけるのであれば、周囲の学生の学習する権利を妨害することになります。本人も学習する権利があるので、難しい対応を迫られます。そのような場合は、教務・学生相談支援部署と連携した上での対応が求められます。また、必要に応じて、本人と面談し適切なフィードバックを行うことが求められます。
ADHDを持つ学生は、「不注意」「多動性」「衝動性」といった特徴があります。大学の講義においては、講義に集中できない、講義に遅刻・欠席する、課題を計画的に実施することが苦手、締切に遅れやすい、といった問題を抱えることがあります。
講義に遅刻・欠席することについては、生活リズムの問題であることが多いです。そのため、生活リズムを確立するための指導を行うなどの対応を取ることができます。また、課題を計画的に実施できない・締切に遅れやすいという問題については、定期的に支援者とスケジュールを確認すると言った対応を取ることができます。講義に集中できない場合は、録音を認める、ノートテーカーを探すと言った対応を取ることができます。
ASD(自閉症スペクトラム・旧アスペルガー症候群)を持つ学生は、コミュニケーションの障害、想像力の障害、社会性の障害といった傾向があります。大学の講義においては、グループワークへの参加が苦手、クラスで孤立する、視線・光・音が気になって講義に集中できない、急な変更(教室変更・休講など)への対応が苦手といった問題を抱えることがあります。
グループワークへの参加が苦手であることについては、必要に応じて個別課題に取り組む、比較的理解のある学生(教職課程の学生など)と同じグループにするといった対応を取ることができます。クラスで孤立するといった、問題については、社会的スキルの指導(ソーシャルスキルトレーニング)を学ぶなどの対応を取ることができます。視線・光・音が気になって講義に集中できないといった問題については、サングラスや耳栓の利用を許可するといった対応を取ることができます。急な変更への対応が苦手といった問題については、変更内容を個別にメモで渡すといった対応を取ることができます。
これらの対応は、一部の例で、実際は個別の学生の状況を見て、可能な範囲を考えて決定する必要があります。